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鼻・副鼻腔外来

鼻・副鼻腔外来は、鼻副鼻腔およびその周辺疾患に対する手術治療に関連する外来です。また、お薬などの手術以外の治療に関しても、細やかな診察を通して提供しています。

手術を行った方が良いかどうかをいろいろな検査で判断し、手術前に行うべき治療および手術後に行う治療について、お薬の処方や処置だけでなく、自分で行うお鼻の手入れの方法や生活習慣の指導などを丁寧に行います。

外来に通院していただく期間は、疾患や病状に応じて異なりますが、できるだけ少ない通院回数で外来加療を行いますので、日常生活への影響を最小にするように工夫しています。

すべて予約制です。手術を行うべきか、どんな手術を受けるのが良いのか、特別に時間をかけて相談したい場合は、セカンドオピニオン外来をご予約、手続きしていただければ、事前の準備を行い、時間をかけて説明することも可能です。いずれにせよ、鼻副鼻腔およびその周辺疾患の手術治療を中心に、各疾患に応じて他科と協力し、専門性の高い最適な治療を提供する外来です。


京都大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科の鼻副鼻腔手術の特徴はなんですか?

入院期間が短い

全身麻酔、局所麻酔にかかわらず、極力短期間の入院になるように配慮しています。 入院の日数は、長年の経験から患者さんの心身の負担が最小で、スムースに外来治療に移行できるように決定しています。例えば、日帰り手術の場合、手術当日に帰宅するわけですが、手術後の心理的な不安感から、夜間に外来受診される方が少なくありません。

短期入院によって、適切な安静が得られ、手術後の合併症を防ぐことも出来ますが、患者さんの安心感という要素が最も大きな要因です。不要に長期の入院はお断りしています。

ただし、高齢者や他に治療中の病気がある場合は、前もって入院していただく必要性が生じることがあり、その際は、若干入院期間が延びます。特に、血液の流れをよくするお薬を使っておられる方は、きちんとした術前の管理が必要となります。また喘息がある方は、手術日までに前もって呼吸器内科に紹介させていただき、喘息の状態を把握し、必要に応じて適切な治療を行っていただきながら手術日を迎えます。

いずれの場合も、患者さんにとって最適であるように努めています。

腫瘍に対する手術の場合、行う手術により個別に入院期間が変わります。入院期間や術後にどのような治療が必要かをきちんと説明するのも、外来での大切な仕事になります。手術日は、原則的には月曜日と水曜日になります。

内視鏡下で行う低侵襲手術

現在では、内視鏡下手術が鼻・副鼻腔の病気の標準的な治療です。京都大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科は、通常の鼻・副鼻腔手術だけではなく、眼窩(目が入っている空間)や頭蓋底(頭蓋骨の中心部で脳を下から支えている部分で、顔面・頭部の最も深い部位のことです)に発生する病気に対しても、一般には難しいとされている内視鏡下手術で、顔面皮膚に切開を加えないで行うことができます。すべての症例ではありませんが、できるだけ身体への負担が少ない(低侵襲な)方法で手術を行うことを方針としています。 他の施設で内視鏡下手術はできないと診断された患者さんでも、内視鏡で手術できる場合が少なくありません。是非、相談してください。

内視鏡を使った低侵襲な手術を基本としていますが、無理に内視鏡手術とするわけではなく、手術前の諸検査の結果から、患者さんにとってベストと思われる手術方法を、リスク(手術に伴う危険)を含めて説明し、患者さんと相談しながら治療方針を決めています。患者さんと相談しながら治療方針を決めます。

また、当院では、初めて外来を受診された鼻・副鼻腔、眼窩、頭蓋底患者さん全例を、耳鼻咽喉科・頭頸部外科医が参加する診療カンファレンスで毎週検討し、それぞれの患者さんに適した治療法を検討しており、個人に偏った治療方針を提供することがありません。

術後、鼻にガーゼをつめません

これも患者さんの心身の負担軽減の一環です。過去に鼻・副鼻腔手術を受けた患者さんの多くが、鼻の手術で最もつらかったこととして、術後に鼻に詰めたガーゼを抜く時の辛さをあげています。

日本では、多くの施設で術後鼻にガーゼをつめます。京都大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科では、きちんとした研究結果に基づいて、ガーゼパッキング(ガーゼを詰めること)を行いません。繊細かつ丁寧な手術を行うことによって、手術中の出血を最小限にとどめ、クリアな内視鏡の視野で手術を行うようにつとめるだけではなく、時間と手間をかけて、丁寧に止血操作を行います。

手術の終了時に少量の止血素材を鼻の中に置きますが、自然になくなる、あるいは術後の鼻洗浄で排出されます。ただし、頭蓋底腫瘍の手術で頭蓋底の再建(腫瘍の切除により損なわれた組織を作り直すこと)を安定させるためなど特殊な場合ガーゼを入れることがあります。


どんな病気の手術を行っているのですか?

おおまかに3つに分けることができます。

それぞれの手術では治療の目的が違いますので、手術に対する考え方も変わります。

鼻副鼻腔の炎症性疾患治療のための手術

慢性副鼻腔炎とアレルギー性鼻炎が中心となります。両方とも炎症性疾患なので、基本治療は薬物治療です。内服(飲み薬)と外用薬(鼻のスプレー)が中心となります。

このような薬物治療や鼻の洗浄(生理食塩水で鼻腔を洗浄すること)を手術治療に対して、保存的治療といいます。鼻洗浄と薬物治療からなる保存的治療が、これらの炎症性疾患の治療の軸になります。

ですから、手術が本当に必要なのかどうか、これまでに適切な保存的治療を行ってきたかどうかをまず調べます。適切な保存的治療が行われていない場合、まず患者さんに最適と考えられる保存的治療を1-2ヶ月行っていただいてから、手術を行うかどうかを決めます。

決して、強引に手術を勧めることはありません。むしろ、種々の要因から「行うべきではない」「行わない方がよい」と判断した場合は、どんなに希望されても手術をお受けしません。

慢性副鼻腔炎に対する手術では、副鼻腔と鼻腔の交通を良好にすると同時に、ポリープなどの病的な粘膜を切除します。昔の手術は、病変を徹底的に掃除するのが良いとされていましたが、逆効果で不自然な治り方になり、問題を引き起こすことが明らかになっています。現在は、粘膜はできるだけ温存し、骨面ができるだけ出てしまわないようにすることで、不要な変形を防ぎ、できるだけ早くきれいに治るように工夫するという考え方で手術を行っています。

鼻・副鼻腔は、複雑な形をしているだけではなく、眼窩(目が入っている空間)や頭蓋底(頭蓋骨の中心部で脳を下から支えている部分で、顔面・頭部の最も深い部位のことです)と隣あわせですし、出血するとやっかいな血管も近くにあります。このため、残念ながら、耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域で最もトラブルが多い手術です。

これは、日本だけでなく、世界中で同じです。この様なトラブルを回避するためには、術前に精密なCTを撮影し(手術のためにCTをとり直していただくことがあります)、最も安全で適格な経路を調べ、副鼻腔の通り道を開放することが大切になります。

このためには、十分なトレーニングが必要です。京都大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科では、内視鏡下鼻・副鼻腔手術を勉強する講習会を年に2回、全国の耳鼻咽喉科・頭頸部外科医を対象に行い、本邦で鼻・副鼻腔手術によるトラブルが少しでも減少するように努力しています。

当然のことですが、京都大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科で鼻・副鼻腔手術を行うのは、このようなトレーニングを受けた医師、あるいは、このような手術講習会で講師を務める立場にある医師です。

国内外の学会に積極的に参加し、常に最新の情報を収集し、われわれが行っている手術治療の評価、批判を広く世界から受けるように努めています。さらに、手術を行う前には、カンファレンスなどで、最も安全で有効な手術方法を徹底的に検討し、すべての患者さんに安全で質の高い手術治療を提供できるように努力しています。また、手術中は最新の“術中ナビゲーションシステム”を用いて、リアルタイムで手術操作をモニターしているため、より安全な手術が可能となっています。

また、少し特殊な副鼻腔炎として、真菌(カビ)が原因となる副鼻腔真菌症や免疫・アレルギーが関係する好酸球性副鼻腔炎があります。

真菌が原因の場合、保存的治療では治らないことが多く、命にかかわるタイプの炎症を引き起こすことがありますので、早期に手術を行い、副鼻腔の真菌をしっかりと除去することをおすすめしています。

好酸球性副鼻腔炎は、慢性副鼻腔炎の仲間ですが免疫・アレルギーが関係しているため、内視鏡下鼻・副鼻腔手術に加えて、適切な薬物治療(抗体治療)を行うことでより症状が改善し、快適に生活がおくれるようになる方がいます。また、好酸球性副鼻腔炎の患者さんは、気管支喘息を合併している方が多く、気管支喘息の悪化が鼻症状の悪化(鼻茸が増加し、匂いがしなくなるなど)も引き起こします。そのため、どちらの管理もうまくいっていることが重要であるため、当院では呼吸器内科の先生と協力・連携し、喘息の管理と好酸球性副鼻腔炎の管理を総合的に行い、お互いの疾患が改善・安定するように努めています。

アレルギー性鼻炎に対しては、鼻の通りをよくする「粘膜下下鼻甲介骨切除術」「鼻中隔矯正術」、くしゃみや鼻水を減らす「後鼻神経切断術」を行っています。これらは、あくまで患者さんの症状を緩和する手術ですので、アレルギーが治るわけではありません。

症状が特に重い患者さん、先に述べました保存的治療で十分な効果が得られない患者さんが対象となります。しかし、鼻が詰まっている、くしゃみがとまらないというのは、命にかかわる問題ではありませんが、日常生活の質を大きく損なうものです。

通常の治療で、アレルギー性鼻炎の辛さがなかなか解決しない患者さんは、是非一度外来で相談してください。

鼻副鼻腔、頭蓋底、眼窩の腫瘍をとるための手術

腫瘍の手術は、炎症疾患に対する手術と基本的な考え方が違います。

炎症では、鼻副鼻腔内の構造に余分な手を入れず、生体の持つ「治る力」と保存的治療を組み合わせて治します。腫瘍では、逆に、再発しないようにしっかりと切除することを第一に考えます。副鼻腔炎であれば、粘膜の根っこのところは温存しなければなりませんが、腫瘍の場合は、粘膜の根っこはもちろん、場合によっては、その下にある骨も切除する場合があります。

術前に行う検査も、若干追加が必要になります。副鼻腔炎同様に、CTで構造をしっかりと評価することは、腫瘍の場合ももちろん大切ですが、MRIを用いて「根っこ」の評価をしっかり行う必要があります。本格的な手術に先立って、腫瘍の組織(どんな性質の腫瘍か)を調べる小さな手術を行う場合もあります。

代表的な腫瘍性疾患を2つ、例として紹介します。鼻副鼻腔で最も多い腫瘍のひとつが乳頭腫という腫瘍です。乳頭腫は良性の腫瘍ですが、再発しやすく、稀ですが、一部に癌組織が発生することがあります。乳頭腫では、しっかりと「根っこ」をとることがポイントになります。手術前に、MRIでどこが「根っこ」なのかをしっかり検討して、手術の準備を行います。

ほとんどの場合、内視鏡下手術できちんと摘出することができます。

悪性腫瘍でも内視鏡下手術を行う場合があります。代表的な例が嗅神経芽細胞腫です。世界的に、内視鏡下手術と術後放射線治療が第一選択とされています。(頭頸部腫瘍外来)

嗅神経は嗅覚を司る神経ですが、鼻腔中央の天井部分から鼻腔の嗅上皮というにおいを感じ取る部分に降りてきます。鼻の左右を分ける鼻中隔付近にできることが多く、見た目は通常の鼻のポリープに似ています。嗅神経芽細胞腫を含め悪性であることが分かっている場合は、まずがん診療部というがん治療を専門としている医療チームの外来を受診していただきがん専門家の診断を受けていただきます。

内視鏡下手術での摘出が適切と判断されると、鼻副鼻腔外来で手術治療の計画を行い、内視鏡下手術を行うという流れになります。

京都大学には、脳神経外科と合同の“頭蓋底腫瘍センター”があり、その他の頭蓋底病変は、下垂体疾患を中心に脊索腫・頭蓋咽頭腫・軟骨肉腫などの治療をチームで行っています。(頭蓋底センター)かつては開頭手術のみで行われていた腫瘍性病変を内視鏡単独あるいは開頭と組み合わせて行うことで、患者さんの身体的負担や入院期間を抑えることができるようになりました。統合型高性能画像診断サーキット・移動型術中CT・術中高磁場MRIを備えた“次世代型ハイブリッド手術室”を有しており、同手術室で最新の手術機器を用いながら頭蓋底腫瘍に対して手術を行っています。これら最先端機器を用いることで、解剖学的に複雑な頭蓋底腫瘍の摘出度が向上し、手術の安全性を高めています。

腫瘍の手術では、周辺の骨組織を切除しなければならないことが多いため、鼻腔と頭蓋内がつながり、髄液漏という状態になることがあります。このような場合、ご自身の太ももから筋肉の膜と脂肪をとらせていただき、これらを材料として、きちんとふさぎます。

適切な手術により、きちんと閉じることが最も大切ですが、術後の安静も非常に重要となります。このようなことが想定される腫瘍の手術を受ける患者さんには、繰り返し術後の安静の重要性を説明しています。安静期間は、通常3日間としています。

鼻腔の形態を整える手術

アレルギー性鼻炎による鼻づまりを改善するために、「粘膜下下鼻甲介骨切除術」や「鼻中隔矯正術」を内視鏡下に行うことを述べました。

これらは、鼻の穴の形が曲がっていたり、狭くなっていたりするために鼻が通らないことに対して、真っ直ぐで広い鼻の穴にして鼻の通りを改善する手術です。アレルギー性鼻炎に限らず、慢性的な鼻づまりがある場合には行うことがある手術です。

どのような手術をすれば鼻が通るようになるか、CTで詳細に検討して、適切な方法をおすすめしています。

しかし、鼻の全体的な形が変形しているような患者さんや、鼻中隔の曲がり方が極端な患者さんでは、内視鏡を用いた手術だけでは鼻の通りを改善できないという場合があります。このようなときには、内視鏡だけではなく「外鼻形成」を併用します。

外鼻形成鼻の柱の部分の皮膚に切開を行い、鼻中隔の端から端まで、また鼻の横への広がりの形までを操作できるようにして行う手術です。こちらの手術に関しては、形成外科の先生とカンファレンスで意見交換をし、最適な手術方法や工夫を検討して合同で手術を行うこともあります。その際は、術後も形成外科の先生と一緒に経過を診ていきます。

ていねいに切開・縫合しますので、傷はほとんど目立たなくなります。同じ名前の手術が美容形成目的でも行われることがありますが、我々はあくまで鼻の通りという機能の改善を目的として手術を行いますので、容姿の改善を希望される方は当科では取り扱っていません。


手術後の治療は、どういったことをすればいいの?

副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、腫瘍と手術を受けた病気により、術後の治療は異なりますが、共通する治療であり、非常に重要な治療として、鼻の洗浄(鼻洗)があります。

手術後の鼻副鼻腔には、手術時に挿入した止血材料や血の塊が残存しています。さらに、痂皮(かさぶた)も生じます。これらを適切に排泄することが、術後の治り方に大きく影響します。術後の鼻洗浄再開のタイミングは患者さん毎にお伝えし、開始していただくようにお願いしています。

鼻副鼻腔の炎症がある場合は、術前から鼻洗を行っていただくように指導しています。

手術直後は、一時的に休止することになります。次に、鼻洗の具体的な方法を説明します。

鼻洗に用いる器具は、インターネットを通じて、あるいは、大きめのドラッグストアで購入していただいています。いくつかのタイプがありますが、1回に使える容量が、150cc以上あるものをおすすめします。たっぷりとした量の液体で洗うことが大切です。

次に、洗浄液の作り方です。500 cc ペットボトルを用意します。ここにシャワーのお湯(さわってきもちいい温度、だいたい40度ぐらい)を 500 cc 入れますティースプーン1杯の食塩をここに入れます。少し振って溶かせばできあがりです。

鼻に入れてしみる場合は、食塩濃度が低い場合が多いので、食塩を追加してください。鼻に入れてしみない濃度に調節していただければ結構です。これで左右の鼻腔を交互に洗浄します。

ひとつ注意していただきたい点は、鼻洗直後に鼻をかまないことです。

立位か座位で5-10分程度待ってから、鼻をかむ、ただし、やさしくかむようにしてください。鼻洗直後に鼻をかむと、中耳に液体が入ります。通常問題はありませんが、中耳炎の原因になることもあります。


担当医師松永、北田、中川、桑田