喉頭機能外科 : II 発声のメカニズム : 実験1 声門部陰圧に関する実験
: II-1 声帯の2質量モデル
: III 発声障害のメカニズム


実験1 声門部陰圧に関する実験

実験目的

1質量モデルと2質量モデルでの声門部陰圧の差を相対的に知る事.

実験方法

図6に示す如き模型を作製, 声門下圧 Ps, 流率 (体積速度) U, 下部声門圧 Pm1 を測定した. 下部声門巾 (矩形) は―定 0.8mm とし上部声門はマイクロマニピレーターにてスライド可変とした. 各条件における上部声門巾は写真撮影により後に測定確認した.

実験結果

図7はその結果を要約したもので, 横軸に上部声門巾 h2, 縦軸に下部声門部圧 Pm1 を声門下圧 10, 20, 30cmH2O の場合について示している. 上部声門が下部と同じ巾 (一質量モデル) では下部声門部圧 Pm1 は陽圧だが, 上部声門を漸次開大して行くと, Pm1 は漸次下降, 上部声門巾が 1.2mm を越えると陰圧になる事を示す. 声門下圧の高い程, 流速も高く, 当然大きな陰圧を生ずる.

考按

下部声門部圧は極めて微妙に変化し, モデル内のわずかな間隙もかなり大きな影響を及ぼす. 本モデルでは特に途中気流が漏出せぬ様配慮した. 本実験で得られた陰圧値は理論値より低いが, これは恐らく圧測定のための人為的負荷条件の影響と考えられる. また上部声門における損失を考慮に入れれば理論値もやや上昇し, 測定値に近づく (石坂).

とにかく, くりかえし測定を行った結果から, 声帯を上下2分した場合の方がべルヌーイ効果が著明に現われる事は明らかである. モデルの都合上 h1, と h2 との種々の組み合わせでの測定はできなかったが, 吾々のモデル測定実験でも石坂の理論値と同様の傾向を認めた.

結論

モデル実験の条件下に於ては1質量モデル (上下声門巾が等しい場合) では声門部陰圧を生じなかったが, 声帯2質量モデル (上下声門中に差がある場合) では明らかな陰圧を生じた.


【まとめ】

声帯は上下に分れ振動した方が (2質量モデル―上下唇位相のづれ) 振動しやすい. そのためには表面の声帯粘膜が, 深部組織から移動しやすいという事 (粘膜移動性) が必要条件である.


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Last update: March 16, 1999