喉頭機能外科 : VI 喉頭の機能外科 : 実験15 声帯過緊張に関して
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人摘出喉頭4, 犬摘出喉頭3, 犬 (生理的条件下発声) 2を用いた.
摘出喉頭の場合の発声法は既述 (実験2に準ずる) の如くであり, 喉頭の条件として基本的に図153に示す如き変形を加えた時の音声を録音, とくに声の高さを計測した. 計測法は,
―この2法である. 実験条件の各々について声門撮影, 流率測定を行なった.
生犬についての実験では自発々声時, 反回神経または前筋 (一個または両側) を電気刺激し, 筋過収縮状態を人為的に形成, その影響を見た.
1. 自発々声時に両側前筋を電気刺激 (60Hz, 6.5V) すると声帯は過緊張となり発声しなくなる. 図154はこの状態を示す. 上が音声, 下が電気刺激だが, 刺激をなくすと低い (590Hz) 大きな声を出すが, 刺激時には, 時に極めて高い (1020Hz) 声を短時間出すにすぎない. 声帯緊張が大なため, 瞬間的にしか声門下圧が発声必要値に達しないものと考えられる.
自発々声時に片側反回神経を電気刺激すると声門は強度に閉鎖, 声帯は短く厚くなり, 音声は低く圧迫された様な嗄声 (R型) となる. 図155は非刺激時の音声と刺激時の嗄声を示す, 刺激時基本周期の変動が認められる (特に右端で).
図153に示す如き種々の変形を甲状軟骨に加えてその影響を検討した. まず正中部を内側にして陥凹させると (図153の2) 声の高さは 775Hz から 270〜370Hz へと低くなる. この際前筋を両側刺激しても, 上記の如き失声現象は全く起こらず, 声のピッチ上昇も著明でない (350 Hz→375 Hz). 一側のみで正中片を側方軟骨翼片の内側にずらし押し込んでやると声のピッチ低下は著明でなく, 前筋刺激により, やはり声は高くなる (330Hz→410Hz). しかし失声にはならない. 図153の1の如く, 正中片が外側になる様にずらすと声の高きは殆んど低下せず (600Hz), 声の強さは著明に増大する. これは声帯を弛緩するよりも, むしろ声帯を側方から圧迫する効果が大きいものと考えられる.
人ならびに犬摘出喉頭での実験でも生犬での実験とほば同様の傾向を示す所見が得られた. すなわち図153の2の如く正中片を内側に押し込んだ形に甲状軟骨を変形せしめた場合には声帯外方移動効果も僅かに認めるが, 主変化としては声は低くなり, 前筋両側 50gr という声帯緊張状態でも低い声が容易に出た. これに反し図153の1の如く正中片を外側に, 側方翼を内側にずらすと声は大きくなるが声高は殆んど変化しないか, むしろ高くなる事もあった. 女性摘出喉頭の場合, 甲状軟骨の彎曲が鈍角なので図153の4の如くなり声帯は全く弛緩せず, 声帯の内方圧迫効果のみが顕われている. 図153の3の如く片側甲状軟骨翼を縦に切開 1〜3mm の巾の縦長軟骨片を切除すると声は低くなり, 同時にやや声帯の内方圧迫効果もある. 女性の場合には甲状軟骨彎曲が鈍角なので, 縦長の軟骨片を切除しても声帯短縮, 弛緩効果は男性におけるほど著明でない.
結論として声帯弛緩効果のみを目的とする場合には甲状軟骨片をずらすよりも, 2本の縦切開によるトリミング (縦長軟骨片切除) (図153の3) が至適手術といえる.
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