喉頭機能外科 : I 緒言
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音声の改善を目的とした外科, これを仮に音声外科と呼ぶならば, 音声外科の進歩, 普及度は耳鼻科領域の他の手術, たとえば鼓室形成などに比して従来低調であり, 喉剔後再建, 喉頭部切などの問題を除けばほとんど声帯ポリープなど良性腫瘍の摘除に限定されて来たといっても過言ではない.
耳鼻科医がこれら領域にあまり積極的でなかった理由は多々列挙できよう.
声帯のごく僅かな腫脹などの変化が音声に思わぬ重大な影響を及ぼし, 術後音声についての正確な予測, 保証が困難な事. 一見正常と思われる声帯で殆んど失声を来す事さえあり, 病的発声機構の理解が困難な事, 喉頭の気道, 気道食道分離弁としての重大な役割上あまり大きな侵襲は避けたいという事. これらの要因が腫瘍を除く音声障害に対しあまり積極的外科的治療が行われなかった背景にあったのではないかと考えられる. より具体例をあげるならば, 声帯自身に手術侵襲を加えんと喉頭截開術を行えば, 術後前連合肉芽発生による音声悪化の危険があり, また, 声帯の術後瘢痕による音声悪化の危険もあるわけである.
喉頭悪性腫瘍に対する治療方針は, 音声は二の次で, 根治が第一であり, 他の音声外科の治療方針とは根本的に異るので, ここでは除外し, 音声外科に限定してのべるならば, これを4段階に分ける事が出来る. すなわち,
外科学一般の問題であるが, 術後の瘢痕防止に有効な手段がない現在, 第3の段階に至る道はなお極めて遠い.
本研究は主としてこの第2段階の手術を扱ったものである. 喉頭のフレームワーク (枠組) に対する手術の適応, 手術法の選択に際しては是非とも病的発声機構の理解が必要である. つまり声門閉鎖不全をなくせばよいのか, それのみならず声帯緊張も変化さすべきか, あるいは声帯粘膜移動性に問題があるのか, などである. 従って本稿ではまず, どの様な条件下に音声障害を来すか, 嗄声になるか, そのメカニズム, その検査診断法, 手術の適応決定法, 手術に必要な解剖的知識についてのべ, ついで手術法各論に入って行きたい. 直接本研究のテーマである手術法とは関連はないが, 基礎的事項は末尾に補遺としてまとめた. 直ちに実地臨床応用に興味のある方は, 各章のまとめに目を通して頂き, 第6章より読んで頂いても結構である.
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