喉頭機能外科 : III 発声障害のメカニズム : III-7 嗄声を来す要因まとめ
← : 実験10 声帯の減衰率
→ : IV 発声障害検査診断法
本章では嗄声を来す各種要因をとりあげ分析してみた. しかしながら各要因は互に独立因子ではない. 例えば声帯粘膜移動牲は声帯スチフネスと密接な関連があり, また乱流雑音を別項目として取りあげたが, 声門閉鎖不全の際起こる一現象の追加説明にすぎない.
嗄声を来す因子として多くの項目を羅列するだけでは問題は解決されない. 臨床的応用を考慮に入れた上で, 第一次近似 (1st approximation) として嗄声のメカニズムをまず図72に示す如く三次元的に表現してみた.
正常喉頭を考えた場合, 良い声が出る為にはある条件が必要である. まず
の3つが最も基本的なものでこの因子の組み合わせにより声の出る領域が決まる. 声帯物性のうち可変でとくに重要なのが声帯スチフネスであり, 物性を仮にスチフネス k でおきかえても良い. この発声条件域から外れれば失声又は嗄声となる. 考え方としては, ある嗄声患者を診た場合, 嗄声発声条件がどの領域にあるかを診断し, 如何にして正常発声域にうつしてやるか, それを考える事が治療の方針といえる.
現実的には声門下圧は心因性失声症や中枢性音声障害などを除いてあまり問題にならない. 声門閉鎖不全度と, 声帯スチフネスを主とする物性を診断すれば良い. 閉鎖度 Ag0 は閉鎖不全のみならず過度閉鎖も考える必要がある. あとは主として不均衡要因であり, 声門閉鎖がほぼ完全に近い場合には両側声帯の結合 (カプリング) が密なので両声帯不均衡の影響は少いが中等度以上の場合, カプリングが疎になり各声帯が独自性をもって振動し, 複雑な振動パターンをとるわけである. 声帯質量不均衡のため左右声帯が異なった振数で振動するためには, カプリングが疎つまり声門閉鎖不全が必要条件なのである.
両声帯の各種不均衡は正常発声域と嗄声発声域との境界付近に特に影響し, 正常発声域を狭くする.
質量不均衡では正常域境界部あるいは気息牲域が R 型粗[米造]性嗄声でおきかえられる事が多い.
声門閉鎖不全が極めて高度だと両側声帯が互に影響され合う事は少く, 比較的単調な独自の振動をするが, 音源としての意味は少く, 声は何れにしても乱流雑音による気息性嗄声となる.
残された問題点も多い. 左右声帯レベル差, 仮声帯の働き, 各種物性の相互関係, とくに粘膜移動牲に及ばす各種物性の影響などである.
嗄声を理解し, 治療方針を決定するにはまず嗄声の種頼を3次元的 (1. 声門閉鎖度, 2. 声帯物性, 3. 声門下圧) に把えるのが便利である.
§. 声帯緊張及び質量の不均衡は声門閉鎖不全時 (両声帯のカプリング疎) 声帯振動に最も大きな影響を及ぼし正常の発声域を狭くする.
喉頭機能外科 : III 発声障害のメカニズム : III-7 嗄声を来す要因まとめ
← : 実験10 声帯の減衰率
→ : IV 発声障害検査診断法