喉頭機能外科 : IV 発声障害検査診断法 : A 検査法 : 1 喉頭原音 (声門波)
: A 検査法
: 実験11 無反射管の較正


IV-A-1 喉頭原音(声門波)

声門で発生した音 (喉頭原音 primary laryngeal tone, 声門音源 glottal source, 声門波 glottal wave などという) は声道で共鳴により音色の変化をうける.

喉頭疾患の診断には, 出来れば, 声道の影響をうけない声門波を直接抽出したいわけである. その現実的一方法についてのべる前にまず声門波と声道共鳴の関係について蛇足ながら簡単にのべる.

1) 声門波と声道による共鳴

声門で呼気流は断続され音を発生する. この声門波は声門より口唇に至る声道により音色の変化をうける. より明確にいうならば, 声門波の各倍音成分、(harmonics) の振巾をS(f), その周波数における声道の伝達関数値を T(f) とするならば, 結果として, 口前で聞かれる音声の周波数成分の振巾 P(f) は両者S(f) と T(f) の積となる. すなわち

P(f)=S(f)T(f)

これを対数 (dB) で表わせば 20 log10 P(f)=20 log10S(f)+20 log10T(f) の如く和となる. この関数を図73に例示する. 声門波のスペクトラムは一般に高い周波数ほど減衰しているので (12dB/oct), 声道伝達特性と口前音とを比較すると口前音の方が高い周波数が減衰しているのが判る. さて発声障害の場合, 問題になるのは声門波である. 口前で録音された音声から, できれば声道の影響を除外し, 声門波を抽出分析する事が望ましい.

2) 従来の声門波の測定 (推定) 法

声門体積波形を直接測定できれば理想だが技術的に目下困難であり, 種々の間接法ないし近似法が行なわれている. 例えば声門面積変化を光の量に変換する光電グロットグラム (Sonesson, 1960), 電気容量変化を応用した電気グロットグラム (Fabre1958), 超音波利用 (金子 他 1970), 声門下圧の直接測定 (比企他 1970) などがある. より実用的には気管前壁音 (気前音) がピッチ抽出の目的で特に医学領域で頻用されて来た. 経験的に声門波形に似ており, 簡単で実用的だが, 周波数に関する較正の面で, 定量的に難点がある. また最近では電子計算機を利用した逆フィルター法 (Mathews et al, 1961, Rothenberg 1973) が頻用されているが, 患者に簡単に on-line で使用できない欠点があり, 未だ臨床的実用段階にまでは至っていない. (註, 逆フィルター法の原理 : 口前音に対し声道伝達関数の逆数に相当するフィルター (逆フィルター) を通してやれば声門波が得られる.)

3) 無反射法 (Sondhi's Tube)

これは無反射管を応用したSondhiの考案になる実に巧妙な方法である.

a) 原理

声門で生じた比較的単純な波形 (先端のなまった三角波ないし鋸歯状波) が声道断面積の急激な変化のある所では反射される. 特に声道断瑞である口唇部で反射され, その反射波は声門に帰り声門波形と重畳する. 重畳した波形は再び口唇部で反射されさらに声門波と重畳する事になる.

声門と反射部位 (主に口唇) との距離ならびに音速との関係で, 何個の反射波が原波形に重畳するかが決定される. 換言すれば反射がなければ共鳴も起こらず, 管のどの部位で音を記録しても同じ筈であり, 音源そのものが記録される事になる.

b) 無反射管の実際

無反射管は Sondhi (1975) の原型にもとづいて作製した. すなわち図74に示す如く真鍮チューブにガラス繊維で作った円錐形楔 (長さ1m) を一端より挿入, マイクロホン (Sony ECM-51) はチューブの開放端より 30cm の所に小穴を開け, 管内に突出せぬ様密着セットした. 発声時呼気息抜きのため, 楔の外側に狭い (内径 2.2mm のプラスチックチューブによる) トンネルを作った. (日本ガラス繊維 KK.0592-34-2111)


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Last update: March 16 , 1999