喉頭機能外科 : VI 喉頭の機能外科 : 1 甲状軟骨形成術を考案した契機
: VI 喉頭の機能外科
: VI-2 声帯内方移動術 Medial Shift of the Vocal Cord


VI-1 甲状軟骨形成術を考案した契機

甲状軟骨形成術をまず動物実験で試みる様考えた動機は次の症例を経験してからである.

症例 (1) M.D. 24 ♂
高校時代, 拳法をやり度々頸部に手拳が当る事があった. その頃からアダムのリンゴの変形に気付き出し, あまりにも変形が目立つので来院, 音声は全く正常だが, アダムのリンゴが左方に偏し左上より右下に向って極端に突出している. 患者自らこの部を圧迫,手指と頸部運動で操作するとこの隆起は消失するが, 音声は極めて低いピッチの嗄声となる. アダムのリンゴを圧迫せず正常音声時の喉頭鏡所見は喉頭の非対称著明で声門軸が後方で左側に著しく偏椅している. 喉頭を圧迫し高度嗄声時の喉頭鏡所見はペチオールスが突出し声帯は軟骨部を残し殆んど見えない状態である. 後になって, この状態は甲状軟骨を圧迫, 舌骨の後方に押えつけている状態である事が判った. 患者の希望により突出部を目立たなくする手術を行なった. 甲状軟骨翼は右方が左方に比し極めて大きく, また左右両翼は鋭角に折れている. これを正常に近い彎曲に近づけようとピンセットで開いてやると音声はかえって悪くなる. 結局, 甲状軟骨突出部の切除いわゆる shaving のみの手術を行ない外見上の患者の訴えは消失した.

本症例の如く全く異常ともいえる甲状軟骨形態で良い声が出, これを正常に近づけてやると声は悪くなる事から, 逆に嗄声の場合, 甲状軟骨を積極的に変形せしめたら良い声になるのではないかと考え, 動物実験で反回神経, 前筋麻痺形成後に種々の変形を甲状軟骨に試みたわけである.

甲状軟骨形成術に関する実験的研究についてはすでに詳細に報告したので (Isshiki et al. 1974) その要約を図115, 116に示すに止める. 図117122 の如き種々の試みを行なった後, 図123, 124に示す如き甲状軟骨形成術 I 型 (窓状切開圧迫) に漸次, 集約されて行った.


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Last update: March 12, 1999