喉頭機能外科 : III 発声障害のメカニズム : III-1 声門閉鎖不全
: III 発声障害のメカニズム
: 実験2 声門閉鎖力, 声門面積と声帯振動


III-1 声門閉鎖不全

既述の如く声門閉鎖不全は嗄声にほゞ共通した所見といえる. 反回神経麻痺で, 声門が完全に閉じない場合, 何等かの手段で麻痺声帯を正中附近に移動し声門閉鎖不全がなくなれば嗄声は消失, 良い声となる.

嗄声の原因として最も重要かつ頻度の高いものは声門閉鎖不全であるといえる. しかし声門が完全に閉じなくても嗄声になるとは限らない. 例えば裏声の場合, 声門は完全には閉じない事が多いが嗄声にならない.

一方, 嗄声の音響分析を行うと, その特徴として

  1. 倍音(harmonics) 成分の減少
  2. 雑音成分の出現
  3. 基本周期の乱れ (Nessel, 広目, 柳原, Issiki et al, Lieberman, 岩田, 北嶋, 他)

があげられているが, この雑音が声門狭窄部 (閉鎖不全) で生じた乱流による事は容易に推察がつく.

すなわち声門が完全に閉鎖せぬため,

  1. 気流の断統が不完全になり, 倍音成分(交流分)は減少し,
  2. また狭窄部で起る乱流ならびに種々の不均衡要因により声帯振動の周期性が乱れると共に
  3. 乱流に起因する気流雑音を発生するのではないかと解釈される.

こゝで一つの落し穴がある. それは声門閉鎖不全 (imperfect closure of the glottis) という言葉でである. 我々が間接喉頭鏡で見て, 厳密にはストロボスコピーで観察して, 声門閉鎖不全があるとかないとかいっているのは, あくまで現象としての (振動状態におけるといってもよい) 声門閉鎖不全であり, 原因としての, あるいは初期条件としての声門閉鎖不全ではない.

いま気流が来ず, 声帯がセットされた状態を想定し, この際の声門面積を Ag0 (glottal area at initial condition) として, 声帯振動中の声門面積 Ag の一周期における最小値を Agmin とすれば臨床的に声門閉鎖不全ありといっているのは Agmin が0でないという事で Ag0 が0でないという意味ではない.

Ag0Agmin は―致するとは限らない, 例えば図8に示す如く, (A) 始め声門が完全に閉じていても気流によって声門が開いたまゝで振動しない事もあり(例えば声帯スチフネスが非常に高く声門下圧が低い場合)逆に, (B) 始め声門が完全に閉じていなくても, 気流により声帯が振動すると声門は閉鎖期で完全に閉じる事も当然起る. 臨床的にはいつも気流が来るので初期条件として, あるいは原因因子としての Ag0 は判らない. たゞ判るのは動的状態における現象としての Ag のみである. 両者を明らかに区別する必要がある.

嗄声のメカニズム分析には2段階 (Ag0Agmin) に分けて考える必要がある. まず気流の来ない時の声門面積 Ag0 と声帯振動の関連を知る目的で以下の2種の実験を行なった.


喉頭機能外科 : III 発声障害のメカニズム : III-1 声門閉鎖不全
: III 発声障害のメカニズム
: 実験2 声門閉鎖力, 声門面積と声帯振動


mailto: webmaster@hs.m.kyoto-u.ac.jp
Last update: March 16, 1999