喉頭機能外科 : III 発声障害のメカニズム : III-2 声帯緊張不均衡
: 実験3 声門閉鎖度, 声門下圧, 呼気流率と音声
: 実験4 声帯緊張不均衡時の声帯振動 (自発発声)


III-2 声帯緊張不均衡

嗄声症例においては声門閉鎖不全以外に種々の原因々子が併存する事の方がむしろ多い. その一つとして声帯緊張の左右不均衡があげられる. 一前筋麻痺はまず思いつく臨床例であるが, その他, 声帯腫瘍などでも声帯緊張の不均衡が多少とも合併しているであろう事は充分考えられる.

一方片側前筋麻痺の診断基準は従来極めて曖昧であり, 一側前筋麻痺の実際の頻度についても信頼しうる報告は未だない様に思われる. 古い教科書では「一側声帯辺縁が鋸歯状ないし波状にたるんでいる所見は同側前筋ないし上喉頭神経外枝麻痺を示唆する」ものとしているが, 文献的にもこの様な例の報告はなく, また私自身この様な症例を見た事もない. 現在この様な推定に基づく診断基準は否定されている.

現在における片側前筋麻痺の診断基準は

  1. 喉頭後連合部の患側への偏倚
  2. 単調な低い声

とされているが, これら所見は他の症例たとえば喉頭外傷後, 喉頭先天異常, 喉頭の炎症後遺症でも起こるとされており, 特異的とはいえず, 診断は困難な事が多い.

片側前筋麻痺時のストロボ所見についても種々異論がある. D[o"]hne (1941) は規則的に, 一方の声帯が他側を押しやる様な, つまり両側が平行に動く相がある, いわゆる durchschlagende Bewegung を特徴としているが, Luchsinger (1942) はこれに反し, 両声帯が互にぶつかり合う様な運動 gegenschlagende Bewegung を一つの診断の根拠としている. Arnold (1961) は片側前筋麻痺のストロボ所見として, 1)左右非対称な振動, 2)左右声帯の緊張差を示す不規則振動および不規則な粗動, 3)一側声帯の弛緩を思わせる病的な垂直運動をあげている. あまり明確な基準はない様である. そこで我々は以下にのべる3種の実験を行なった. 前2者は既に原著として田辺ならびに筆者により発表ずみなので簡単にのべるに止める.


喉頭機能外科 : III 発声障害のメカニズム : III-2 声帯緊張不均衡
: 実験3 声門閉鎖度, 声門下圧, 呼気流率と音声
: 実験4 声帯緊張不均衡時の声帯振動 (自発発声)


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Last update: March 16, 1999