喉頭機能外科 : III 発声障害のメカニズム : III-5 声門における乱流雑音
: 実験8 声帯粘膜の移動性に関する実験
: 実験9 声門部乱流雑音


III-5 声門における乱流雑音

嗄声の音響的特徴の一つは雑音成分を多く含んでいる事であり, 雑音発生部位は声門である. 例えぱ囁き声の場合の如く声帯が殆んど振動せず声門に小間隙を生ずると, その狭窄部を流れる気流は, ある流速以上では乱流となり雑音を生ずる. どの様な条件でどの程度の雑音が発生するか, より定量的に知る必要がある.

〔雑音の発声原理〕

気流には層流 (laminar flow) と乱流 (turblent flow) がある. 層流は管の各部位における流れの方向が平行で音を発しない. 乱流では気流の方向が不規則に乱れ, 気流が衝突し合うので雑音を生ずる. これを空気カ学的雑音 (aerodynamic noise) 又は乱流雑音 (turbulent noise) という. 一般に流速を速くしていくとある点で層流から乱流となり雑音を発する様になる.

より厳密には層流から乱流になる境界条件Reynolds Number (Re) によって決まる.

レイノルズ数とは次式により示される無次元数である.

Re = (ρ・v・h )/μ = (v・h )/ν
2)
Re:
レイノルズ数
h:
狭窄の実効径
v:
流速
ν:
μ/ρ 動的粘性率 kinematic viscosity
ρ:
流体密度
μ:
粘性係数 coefficient of viscosity

すなわち Re が一定値 Rec (臨界レイノルズ数 critical Reynolds Number) を越えると層流から乱流へと移行する.

h はせばめ実効径 (effective width) といわれるもので, h = 4rh = 4A/S により管の断面積と周りの長さより求められる.

rh :
水力学的半径
A :
断面面積
S :
断面の周囲の長さ
rh = A/S

例えば円では h = (4・πr2)/(2πr) すなわち直径となり, 細長い矩形では, 短辺 b の倍 2b となる.

雑音の強さと気流との関係は雑音発生部の形状により異なるが, 声道模型ならびに生体による種々無声摩擦音発生に関して Meyer-Eppler の実験がある. それによると一般に口から距離 l の点で測定される雑音々圧 pl は次式で近似できる.

pl = a (Re2 - Rec2), (Re >= Rec )
3)
pl = 0, (Re < Rec )
4)

つまり Rec を越えてはじめて雑音は発生し, 以後, その雑音々圧はレイノルズ数の2乗に比例するという事である. 上式を書き換えると,

Re2 = (h2v2)/ν2 = 422(A2/S2)(U2/A2) = 16/ν2U2/S2
5)

但し U は流率 (体積速度)

従って半径 r の円の場合は

Re2 = 422U2/(2πr )2 = 4/ν2π・(U2/A)
6)

細長い矩形では (長辺を l とする)

Re2 = (422)(U2/(2l)2=(4/ν2)(U2/l2)
7)

となる.

声門部雑音発生に関する定量的実験的研究は未だ全くなされていない. 臨床的にも間隙の大きき, 流率とその結果発生する雑音の強さの関係を知っておく事は, 嗄声の原因を分析探究する上にも不可欠の事と思われる. そこで以下の雑音発生に関する模型実験を行なった.


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Last update: March 12, 1999