喉頭機能外科 : V 喉頭機能外科に必要な解剖 : A 喉頭とくに軟骨の計測 : 1 声帯前連合ならびに声帯の甲状軟骨への投影
: 実験13 喉頭とくに軟骨の計測
: V-A-2 甲状軟骨の彎曲度,大きさ


V-A-1 声帯前連合ならびに声帯の甲状軟骨への投影

各計測部位は図102の如くで計測結果を表5に示す. 我々が臨床上最も, しばしば知る必要があるのは声帯前連合ならびに声帯の位置である. 例えば喉頭截開術の際, 前連合
を最後に下方より, 明視下に左右に偏せず切断するためには最後にどこを切るか予測しなければならない. さらに声帯筋々電図, 経甲状軟骨声帯内合成樹脂注射, 甲状軟骨形成術I型 (一色) などの際にも声帯のレベルを正確に知る必要がある.

また甲状軟骨の部分的切開ないし切除する場合にも声帯レベルの正確な推定が必要となる. 例えば林式声門下甲状軟骨截開術, 広戸式部分的甲状軟骨切除術である.

計測結果からいえる事は 「男女とも声帯前連合は甲状軟骨切痕 (上縁) より甲状軟骨下縁に至る正中線のほヾ中点ないし, やゝ上方寄り (男 1mm 弱, 女 0.5mm 弱) といえる.

男女差は有意とはいえないが, 男では甲状軟骨切痕が著明な事 (b が大) も関係してか, d > c, d/c > 1, つまり中央より, やゝ上方寄りの傾向が強い. かなり個人差が大きい事も, 表5から理解される. 手術時にはまず中央と考え, 男では上下最大 2〜3mm, 女では 1〜2mm の誤差を考慮せねばならぬという事である.

過去の文献を比較してみると Seifert (1943) は声帯のレベルは甲状軟骨下縁より 7〜9mm とのべた (我々の d に相当). Gurr (1948) は 100 屍体 (男65, 女35) 喉頭につき詳細な計測を行い, 前連合位置についてものべているが規準点をアダムのリンゴ, つまり甲状軟骨切痕突出部にとり男で下方 3.5〜6.0mm, 女で下方 3.0〜5.0mm としている. 広戸は男12例, 女18例の屍体喉頭の計測結果甲状軟骨上切痕より, 前連合までの長さ, 前連合より甲状軟骨下縁までの長さの平均値は, 各々男で 7.0mm と 10.5mm, 女で 7.9mm と 9.8mm としている.

個人差がかなり大であり, 従来の報告と数値的には必ずしも一致しないが全体の傾向としては, ほぼ広戸の報告に一致している.

声帯全長の甲状軟骨への投影を知る事は, 経甲状軟骨声帯注射 (佐藤 1971, Hurst 1972) や声帯側方への軟骨移植 (Meurman 1952, Opheim 1955, Sawashima 1968, Kamer and Son 1972) や甲状軟骨形成術 I 型 (一色) を行う上で, 必須の解剖学的情報といえる. 臨床的応用という見地から種々検討した結果次の方法が最適と判った. すなわち「まず前述の方法により声帯前連合の決定, その点を通って, 甲状軟骨下縁の水平線に引いた線が, ほゞ (誤差 1mm 以内で) 声帯レベルを指示する (図103のi). こゝで甲状軟骨下縁の水平線とは図103の破線で示す如く, 甲状軟骨斜線 Linea obliqua の延長上の下方への突出 (前筋附着部) を無視し後方の甲状軟骨下縁とを絵んだ線である.こゝでいう声帯レベルとは声帯上面のレベルであるから, 声帯注射, 軟骨移植などでは,これを上限とし, このレベルより上方に入らぬ様手術操作を行うべきである. さもないと喉頭室や仮声帯の膨隆, 突出を来たす恐れがある.図104は, 声帯レベルを針利入により示したものである.


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Last update: March 16, 1999