喉頭機能外科 : VI 喉頭の機能害外科 : 4 声帯緊張弛緩術 : B 過緊張性音声障害
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声帯の過度緊張は失声症を, 声門過度閉鎖は圧迫性 R 型嗄声を来す. これら症例では後述の如く機能的因子, 心困性田子の関与も度々見られるのでまず, 脱緊張筋弛緩を斉らす様非観血的方法を試みるのが第一である. これらの方法が無効な場合, 手術により, 声帯を機械的強制的に弛緩せしめるのも一法であり, 良い声が出せる様になれば少なからず心因的要因にも好影響を及ぼすものと考えられる.
術前キシロカインによる前筋麻痺テスト, 用手テスト (甲状軟骨を脊側へ圧迫) は必須だが, 声を聞いて, また間接喉頭鏡検査で声帯過緊張か, 声閉鎖か, その両者かを鑑別する事が肝要である.
関西医大本庄厳助教授の報告例である.
声から判断すると声門過閉鎖を主とし声帯過緊張を伴ったものでいわゆる過機能性ないし, けいれん性音声障書 (hyperfunctional or spastic dysphonia) である. 詳細は耳鼻臨70巻4号に発表されているので省略するが, 術前は喉頭部がしめつけられる様な狭窄性, 圧迫性音声, 発声時呼気流率 75cc/sec と声門抵抗の大きさを示す所見などを特徴としていた. イソミタール静注, 喉頭内, あるいは前筋麻酔は無効であり, 甲状軟骨形成術 III 型 (図153の2) で声帯附着部甲状軟骨片を内側へ嵌入せしめ, 劇的改善, すなわちピッチ低どっている.
4ヶ月経過後も治療効果に変りはない.
数年前, バス旅行で洒をのみ大声を出して以来, 声がつまり出し, 種々の精神心理療法を試みるも無効, 強度の圧迫性 R 型嗄声である. 発声時は声門閉鎖過度で声帯は仮声帯に隠れて見えない. 前筋キシロカイン麻酔で声はかなり楽に出る様になる. 当時 (8年前) は未だ甲状軟骨形成術を創案する以前であり, 声帯, 仮声帯を薄くする事を考え, 喉頭截開術を行ない, 声帯粘膜を一部剥離, 声帯粘膜下組織を切除, 凹ます形とした. 術後しばらくは良い声であったが, 3週間でほぼ元にもどり手術の効果はあまりなかった. 本症例を通じ, 声帯その物への手術侵襲の困難さ, とくに術後瘢痕の影響を考慮せねばならぬ事を痛感し, 声帯自体への侵襲は声帯自体の病変がない限り行なわない事にしている.
過機能性音声障害の手術適応は | 非観血的療法をまず試み無効な事. キシロカインテスト又はマニュアルテストで音声改善する事を参考にする. |
過機能性音声障害の手術方式は | 甲状軟骨形成術 III 型, (両側縦切開, 正中片を奥へ (脊側へ) 嵌入させる. (図153の2) これにより声帯弛緩と軽度外転効果が得られる. |
最近 Dedo は過緊張性音声障害 spastic dysphonia に対し, 片側反回神経切断を行なっている (34例). 本邦では症例数もはるかに少く, 程度も軽いものが殆んどであるが, 著者の考えでは反回神経切断を行なわなくても甲状軟骨形成術 III 型で充分ではないかと思われる. たとえ神経を切断するとしても, 甲状軟骨翼後縁から喉頭に入り内転校のみの切断で充分ではないかと考える.
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