喉頭機能外科 : 結語
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約4年前, 甲状軟骨形成術を発想して以来, 実験と臨床経験の積み重ねにより, 声帯位置, 声帯緊張度を変化せしめる各種手術法を提唱, 実施し臨床的成果を得る事が出来た. 我々の開発した新手術々式とその特徴を簡単に記すると
手術成績は疾患又は症例により区々であったが, 効果の顕著であったのは反回神経麻痺, 変声障害, あまり効果の著しくなかったのは, 喉頭外傷例, 声帯皺である. その他,特記すべきは上記手術法は操作が容易で, 術後合併症を起こしたもの, 術後音声の不変または悪化したものが一例もなかった点である.
手術の適応決定には嗄声の原因を適確に把握する事が肝要である. 上記手術法との関連においては, 特に声門閉鎖不全, 声帯スチフネス, 声帯粘膜移動性を正しく評価せねばならず, 種々の新検査法, 診断法を試みた. これらの多くは未完成であり, 今後なお大いに改善の余地がある. 列記すると,
などである. 音声の聴覚判定とくに粗[米造]性 Rough か, 気息牲 Breathy かの判定は嗄声メカニズム理解上にも重要である.
嗄声のメカニズムに関しては
その他の問題をとりあげ, 嗄声条件帯域より正常声条件帯域に移行けためには何を (どの因子) 変えるべきか, 第一次近似として, 理解に便なため三次元的に (声門間隙, 声帯スチフネス, 声門下圧) 嗄声, 正常声の発声条件を示してみた. 今後の発展へのたたき台となれば幸と考える.
声とは不思議なものである. わずかな或はわずかに見える病変でも全く声が出ず, また顕著な病変でも意外と良い声が出る事もある. しかし発声機構の最終段階は全く物理的現象であり, 必ず理論的説明がつく筈である. 喉頭科学, 音声外科学は理論と実験により一歩一歩着実な進歩が期待される極めて興味ある領域である.
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