喉頭機能外科 : VI 喉頭の機能外科 : 3 声帯外方移動術
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声縛を外方に移動または外転する必要があるのは主に次の場合である.
このうち前者は甲状腺腫瘍または同手術々後, 最も度々発生する. 後者つまり手術を要する程の spastic dysphonia は我国ではむしろ稀である. 米国などではかなり頻度が高い様で, Dedo の片側反回神経切断術などの報告もある.
両側声帯麻痺の際には気道確保が問題であり, 甲状軟骨形成による間接的方法では不充分と考えられ, Woodman 手術により代表される披裂軟骨への手術が必要となる.
両側声帯麻揮による気道狭窄 (呼吸困難, 喘鳴)
通常まず血液ガス分析を行なった後に気管切開を行なう. 気管切開口を通じて声門下圧測定, 経鼻経口気流々率を測定, 気道抵抗を計算しておく. 一般的術前検査については省略するが, 手術は局所麻酔下に行なうので既述の如き鎮静剤, 鎮痛剤の投与を行なう (118頁※).
※「VI-2-A 甲状軟骨形成術 I 型 ― 側方圧迫」中「3 手術法」参照
特に新しい点はない. 皮切は甲状腺手術後の場合には切開瘢痕の切除を兼ね皮切を行ない, 旧切開線をさらに上外側方に延長する. 頸部に皮切瘢痕のない場合には甲状軟骨中央の高さで頸部水平切開を一側寄りにおく.
既述の披裂軟骨内転術の皮切よりさらに側方におく. 皮切は胸鎖乳突筋前縁にそった斜切開でも良い. 披裂軟骨節突起へのアプローチについては前項で詳細にのべた (133頁※)ので省略する.
※「VI-2-B 披裂軟骨内転術 (一色)」中「筋突起へのアプローチ」参照
糸をかける部位が前述の披裂軟骨内転 (回転) 術とはやや異なる. 披裂軟骨を関節面より充分, 分離した後, 軟部組織を充分つかんで筋突起付近に1本, 甲状披裂筋の披裂軟骨起始部に1本 (なるべく声帯突起寄り) ナイロン3-0 糸をかけて一旦結ぶ. この糸をか ける操作がむつかしい. 充分鈎で甲状軟骨翼を回転し充分な視野を得る事が大切である. 甲状軟骨翼後縁に近く2ヶ所キリで穴を開け, 糸の一方を彎曲鋭針にかけ, 穴を通す. 2ヶ所の操作が終った所で, 喉頭を元の位置にもどし, 糸を引きながら, 気切口を一時蓋し, 呼吸困難の程度, 発声の具合を見る. 外転不足と思われる時には, さらに声帯突起付近にもう1本糸をかけ外側牽引を追加する. 糸をかける操作中に披裂軟骨が割れる事があるが, 構わずなるべく声帯突起よりで軟部組織を大きくつかむ事が肝要である. 呼吸困難感のない事を確認して糸を全部結ぶ. ペンローズドレーンを留置し術を終る.
ウードマン手術を行なったのは4症例で, 何れも両側声帯麻痺例であり, 3例は甲状腺 手術々後, 1例は肺結核に関連して起こったものである. 手術結果を表11に要約する. 特筆すべきは1例で術後, 牽引側声帯が運動しはじめた事である. 映画により発声時声帯内転運動が確認された.
そのメカニズムについては全く判らない. 可能性としては
何れにせよ声帯は麻痺していても, 内転筋が末だ活動していたのではなかろうかと推察される. 今後の興味ある課題の一つである.
気管切開術前吸気性喘鳴の著しい症例でも, 動脈血所見は意外と正常範囲にあっても精一杯の代償によるものと考えられ, 動脈血所見に頼りすぎてはいけないといえる.
局所麻酔下に行ない術中, 呼吸と発声との妥協点を, 患者の意識下, 発声を行ないつつ求めた方が好ましいと考える. 披裂軟骨〜甲状披裂筋起始部の外方牽引糸の固定は甲状軟骨翼に穴をあけて固定した方が確実である.
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